センター長ご挨拶

センター長 十倉好紀

理化学研究所に、物理-化学-エレクトロニクスの基礎を統合し、研究のトップリーダーと次代を担う若手研究者を糾合した、創発物性科学研究センター(CEMS)がスタートしました。

創発物性科学では、物質中に含まれる電子やスピンや分子の動きを制御することで、創発物性・機能の発現とそれを可能ならしめる物質系やデバイスの創製を目指します。ここで「創発性」とは、多数の構成要素からなる集合体が、個々の要素の性質の総和としては記述できないような、質的に新しい性質が出現することを言います。強く絡み合う多数の電子が示す驚くべき物性機能を探る「強相関電子物理」、分子系が形成する超構造を設計し画期的な機能発現の場を提供する「超分子機能化学」、そして量子力学の支配する絡み合いを状態変数として利用する「量子情報エレクトロニクス」、がCEMSを形作る3つの基幹分野です。しかし同時に、CEMSは研究組織の創発性をも利用します。個々の力や専門性を糾合、集中することによって初めて達成可能な、すなわち総力戦を必要とする、挑戦的な課題の解決を果たすことが、理研の戦略センターのミッションと考えます。

CEMSが解決すべき挑戦的課題、実現すべき創発機能として挙げるのは、「第3のエネルギー革命」を先導する固体や分子内の電子が示すエネルギー機能です。電気エネルギーという極めて利用しやすいエネルギー形態とその移送システムのインフラストラクチャーを人類が手にしたのは、高々この120年の間です。蒸気機関による力学エネルギーを電磁誘導によって電気エネルギーに転換するにあたって、燃焼エネルギーあるいは核エネルギーを用いたのが、それぞれ第1、第2のエネルギー革命であったとすれば、今は、力学エネルギーを介することなく、固体・分子内の電子の働きを利用する創発電磁気学の建設、すなわち「第3のエネルギー革命」が始まっています。半導体エレクトロニクス、太陽光発電、高温超伝導に続く、固体・分子内電子に基づく新しいイノベーションを希求した研究が、現在も加速しながら続いています。私たちのセンターの目的は、従来技術・原理の改良や延長ではなく、物性科学基礎研究からのアプローチによってのみ可能な、性能指数に大きな不連続的飛躍をもたらしうる新原理・新物質の発見です。またそこに至る道筋を、人類全体の英知を蓄積する学理として、いかほどに発信できるかによって、私たち自身の研究の価値を定めたいと思います。

創発物性科学研究センター センター長 十倉好紀